比較検討 へき開粒子と石綿様繊維構造
前項ではJISとISOを比較し、両者の基本的な考え方が異なることを指摘した。その考え方の違いの元となっているのが、へき開(Cleavage)粒子と石綿様繊維構造(Asbestiform)の違いを区別するか否かであると思われる。ここではトレモライトを例にしてへき開粒子と石綿様繊維構造の顕微鏡観察上での違いを観察する。なお”Asbestiform”に適当な訳語が見当たらないのでとりあえずここでは”石綿様繊維構造”とする。また、トレモライトとアクチノライトの区別は難しく、またひる石に不純物として含有している可能性のあるウインチャイトとヒリテライトとも顕微鏡観察では区別がつかないため、ここでは全てをまとめて”トレモライト”とした。
使用した試料は、①JAWE511トレモライト標準試料、②インターネットで購入した由来不明のトレモライト鉱石、③吹付けひる石中のトレモライト、の3点で、それぞれを実体顕微鏡、偏光顕微鏡、位相差分散顕微鏡にて観察した。エックス線回折装置にて粉末試料のエックス線回折チャートを得た。
1.実体顕微鏡観察
1-1. トレモライト標準試料
エックス線回折分析法用なので綿状に見える極めて細かい繊維状粒子。

1-2. トレモライト鉱石
色は薄緑で硬く、きれいな石のようだ。表面にひびが入っており、部分的に長い粒子状に割れている。

1-3.吹付けひる石の中のトレモライト
ひる石中のトレモライトは繊維束状で比較的見つけやすい。

2. 偏光顕微鏡観察
2-1. トレモライト標準試料
×100、直交ニコル
非常に細かい単繊維で、針状といえるかもしれない。細い繊維とやや太い繊維(それでも縦横比はJISが石綿とみなす基準である3:1以上はある)が混在している。繊維が短く、小さいため柱状や針状のへき開粒子なのか石綿様繊維構造なのか判然としない。

左:×400、直交ニコル+530nm鋭敏色板 右:同 鋭敏色板なし
伸長は正、消光角は直消光から斜消光12°くらいまで。

×400、直交ニコル
中央○内の繊維はやや太く、柱状のへき開(Cleavage)と思われる。消光角は12°。

×400、分散染色、浸液の屈折率1.620
トレモライトの分散色を示す。

2-2. トレモライト鉱石
左:×100、直交ニコル、右:同 +530nm鋭敏色板
ほとんどが塊状で、繊維状粒子は少なく、石綿様繊維構造はみあたらない。

左右ともに×400、直交ニコル
柱状のへき開粒子。伸長は正、消光角は斜消光約7~11°。

左右ともに×400、直交ニコル
柱状のへき開粒子。

左右共に×400、分散対物、浸液の屈折率1.620
柱状のへき開粒子。 トレモライトの特徴と合致している。

2-3. 吹付けひる石中のトレモライト
×100、直交ニコル+530nm鋭敏色板
実体顕微鏡でピックアップしたトレモライト繊維束を偏光顕微鏡で観る。
石綿様繊維構造の束が多く観られる。

左右ともに×400、直交ニコル
極細い繊維の束が良く観察できる。消光角は直消光~8°。

左右ともに×400、直交ニコル+530nm鋭敏色板

左右共に×100、分散対物
トレモライトの分散色を示す。

2. エックス線回折分析
エックス線回折チャートへ
〈青:トレモライト標準試料、赤:トレモライト鉱石、桃:ひる石吹付け中です。わかりにくくてすいません。 〉
3. まとめ
3つの試料には全てトレモライトの分散色を示す粒子が含まれており、トレモライトを含有していると考えられる。しかし、形状については、針状の短繊維(標準試料)、柱状(鉱石)、束状の細繊維(ひる石中)と異なる。消光角は標準試料とひる石中のトレモライトは直消光するものもあるが、斜消光の繊維もあり、へき開と思われるトレモライト鉱石の柱状結晶は全て斜消光であった。エックス線回折分析法では、標準試料ではトレモライトのピークは顕著だが、トレモライト鉱石では第1回折線がわずかに現れ、ひる石はトレモライトの回折線は現れなかった。石綿の発がんする力は、成分よりも形状に強く依存すると言われる。今回の調査のように同じ石綿鉱物に由来していても形状が異なると発がんリスクも異なる可能性があり、石綿をめぐる問題を複雑にしている。
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