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東日本大震災後の被災地におけるアスベストの状況
石巻アスベスト・プロジェクト報告

1.目的
 日本ではこれまでに約1,000万トンのアスベストが輸入され、その8割以上が建材に使用されました。不燃、耐火、耐久性などに優れた鉱物として特徴と同時に繊維として柔軟性、加工の容易さを持つことから広く産業に利用されましたが、目に見えないほど微細な繊維状の粉じんの曝露(呼吸によって吸い込むこと)によって、非常に長い潜伏期間の後で肺がん、中皮腫などの重篤な病気を引き起こすことから、日本では2004年10月にアスベストの基本的な建材への使用は禁止され、2012年3月には全面的に禁止されました。しかし、現在も大量のアスベスト含有建材が建物に残されており、解体除去時に力が加わることによって、それらから容易に発生する粉じんに曝露することによりじん肺、肺がん、中皮腫などの健康影響が発生すると考えられています。アスベストの建康への危険性:建康リスクの特徴は、①大量に残されており、身近に存在し、②加工などの力が加わることにより容易に粉じんが発生する、③潜伏期間が非常に長く、④重篤な病気を引き起こす、ことにあります。
 1995年の阪神淡路大震災後の解体工事に従事した作業者がアスベスト曝露により中皮腫を発症し、震災から13年後の2008年に労働災害を適用されていることからも震災後の労働者と住民、ボランティアの皆さんのアスベスト曝露が懸念されています。
 平常時であれば建築基準法、建設リサイクル法、石綿障害予防規則、廃棄物処理法、大気汚染防止法などの関連法規を遵守することにより作業者、建物利用者と周辺住民のアスベスト曝露を予防することができます。しかし震災と津波により損傷を受けた建物が大量に残され、がれきの処理に数年という時間を要すると言われています。今後これら建材の撤去と廃棄が行われる中でどのようにアスベストが飛散し、どのようにアスベスト曝露の可能性が生じるのかということは、世界的にもこれまでに経験したことがなく、そのような未知の領域のなかで人々のアスベスト曝露を予防する対策を行う必要が生じています。
 私たちは東日本大震災発生後の2011年に第1次調査を被災地全般で実施し、その結果をもとに対策の提言をしてきました。しかし、被災地は広大であること、そして状況が時間経過により変わりゆくことから、私たちNGOを主体とした非力な調査では、十分に全体をカバーしきれていない感想を禁じえませんでした。そのため第2次調査として、地域的に焦点を絞った調査を計画し実行してきました。今回の調査は、対象を石巻市に絞り、震災から約1年後の被災地でのアスベスト含有建材の状況をより詳細に把握し、気中のアスベスト繊維濃度を測定し、またこれらを評価すること、さらにそれらの結果を元に関係者と協議することにより、今後の適切かつ合理的なアスベスト対策を検討し提言、実行を促すことを目的としています。
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2. 方法
2-1.アスベスト含有建材の状況調査とマッピング
 アスベストはほとんどが建材に利用され、今でも多くの建物にアスベスト含有建材が残されています。建材にアスベストが含有しているかどうかは分析しなければ正確にはわかりませんが、含有の可能性が高いもの、また含有している場合に特に注意が必要な建材を目で見て判断することは可能です。私たちは被災地を見て回り、アスベストの危険性が高く、目で見て判断できるものをピックアップしました。その際に特に注意したのは、吹付け材とスレート材です。吹付け材は、飛散性が高く解体工事の際には特別な飛散防止対策をとらなければならず、リスクが高い建材です。調査では吹付け耐火被覆(写真1)のように露出していて飛散する可能性が高いものをチェックしました。吹付け材にはアスベストを含まないものも多く、分析しなければ含有の有無は分からないため、解体の際には必ず分析しなければなりません。
 一方、輸入されたアスベストの半分以上はスレート板に使用され、大量に残されている建材です。写真2のように倉庫や工場では波板スレートが使用されることが多く、被災地でも大量に残されています。吹付け材と比較して飛散性は低いものの、切断や破断されるとアスベストが容易に飛散します。また分別が不十分なために再生砕石に混入していることが問題になっています。スレート材は2004年製造のものまでアスベストを含有しており、特に波板スレートはほとんどのものが石綿を含有しています。またスレート板の石綿含有はルーペで観察することにより、誰でもかなりの精度で判断することができます。今回は、波板スレートおよび材料を確認してアスベスト含有を確認できた成形板をマッピングの対象としました。
 これら2つの建材のある場所を記録し、地図上に示しました。この調査には多くのボランティアの皆さんが参加し、アスベスト含有建材についての知識とルーペによるアスベスト含有建材の見分け方を習得しました。また調査の中で得られた建物の持ち主や作業者の方からの情報も集約しました。
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2-2.気中石綿濃度測定
 調査により、アスベスト含有建材が多く、リスクの高い場所が判明した場合、その周辺の空気中のアスベスト濃度を測定しました。アスベストの粉じんは、放射線とは異なり、アスベスト含有建材が存在しているだけでは発生せず、破砕などの物理的な力が加わることによって環境空気中に発生します。空気中のアスベスト濃度は、発生量、その場所の換気の条件、風の向きと強さによって大きく変動しますが、反面、測定の方法は例えば「瞬時値」が測定できる機器はなく、低濃度のアスベスト濃度測定のためには数時間の空気のサンプリングが必要となります。つまり測定によるきめ細かい濃度の把握が難しいという特徴があります。マッピングの結果からリスクが高いと予測される場所で集中的にサンプリングを実施したことが、今回の調査の特徴です。環境中の空気をポンプで吸引し、フィルター上に浮遊物を採取し、顕微鏡で観察してアスベストを計数しました。分析方法は環境省「アスベストモニタリングマニュアル第4版」の位相差顕微鏡による総繊維濃度を計数しながら、同時に偏光顕微鏡に切り替えることによりアスベスト繊維を同定し、総繊維濃度およびアスベスト繊維濃度を求めました。

2-3.発がんリスク評価
 気中アスベスト濃度測定結果から発がんする危険性の大きさ:発がんリスクを推定することができます。これまでの調査研究からいくつかのリスク評価のための指標が使われています。日本では、例えば作業環境の基準として150f/L(1Lの空気中に150本のアスベスト繊維が浮遊している)や工場の排出基準として10f/Lなどがありますが、アスベストの発がんをおこすしくみは閾値(これ以下ならば全くがんをおこさない下限値)がなく、少量の曝露でも発がんリスクを量に応じて上昇させるため、これらに基準にとらわれず、発がんリスクを検討しました。今回は、日本産業衛生学会の許容濃度の勧告を利用して発がんリスクを算出しました。必ずしも濃度が高くないとしても、アスベストが飛散する状況があれば、それらも把握し、対策を検討するための材料としました。
2-4.リスクコミュニケーション
 関係者(リスクを発生させる者、管理する者、リスクの影響を受ける可能性のある者、外部の専門家やNGOなど)がリスク情報を共有し、対策を検討、実行する過程をリスクコミュニケーションと呼びます。法律などで明確な基準がありそれを守ればリスクは問題にならない、という状況は現代では少なくなっています。住民などは「リスク・ゼロ」を求め、行政などがそれを安易に根拠なく保証してしまう状況がリスク管理失敗の典型例です。アスベストのリスクは常に存在するという認識に立ち、震災後アスベストのリスクは増加している現状を踏まえた上で、どのようにリススを低減してゆくのかを関係者で協議し、実行することがリスクコミュニケーションです。またアスベストのリスクとその対策では測定・分析方法、管理と除去の方法などが今まさに検討されており、確定しているものではありません。どこまでが許容できるリスクなのか、どこまでの対策を採るべきかなどの点では、相互に利害が対立することがありながらも、情報共有と話し合いによって、合理的な対策を検討し、実行することが実効性のある対策へつながります。今回は調査の結果を住民、ボランティア、行政機関担当者へ報告し、調査時の周辺の建物の状況調査と周囲にいた作業者、住民との話、また報告会参加者との意見交換など、建物の状況と人々の防じん対策の状況から実行可能な対策を検討しました。



3.経過
 これまでの調査および活動の経過は以下のとおりです。
 ①2011年12月11日-14日 予備調査
    雲雀野、門脇、中央など視察
開成団地、川口町などで被災された方を訪問し情報交換 
    石巻市災害廃棄物対策課、石巻赤十字病院、ピースボート訪問
    石巻保健所主催の石綿含有廃棄物の撤去作業に参加
 ②2012年1月22日-24日 第1回調査
    石巻市中央、立町、千石町、住吉町他でマッピングと気中濃度測定
    石巻市災害廃棄物対策課、石巻保健所、石巻労働基準監督署訪問
 ③2012年2月12日-14日 第1回調査の報告と協力要請
    石巻市災害廃棄物対策課、石巻保健所、石巻労働基準監督署、
    石巻赤十字病院、ピースボート、専修大学などを訪問
④2012年2月26日-28日 第2回調査
    石巻市川口町、魚町、大門町他でマッピングと気中濃度測定
    石巻市災害廃棄物対策課、石巻保健所、石巻労働基準監督署訪問
 ⑤2012年3月20日 「アスベストから石巻を守ろう!」
    調査結果の報告とフィードバック
    防じんマスクの使用方法
    アスベスト含有建材の見分け方

写真3-1:露出した状態(11/12/14)
写真3-2:養生(12/1/22)
写真3-3:散乱したアスベスト4.調査結果
4-1.アスベスト含有建材の状況調査とマッピング
 アスベスト含有建材調査は1月22日−24日、2月26日−28日行われ、延べ58人が参加しました。吹付け耐火被覆は14か所、スレート板は140か所で確認され、結果をマッピングしました(図2)。津波被災地では震災から10ヶ月以上を経てがれきの撤去が進められており、津波で流された残留物の大部分は一次仮置き場へ移動されています。一方、半倒壊の建物の多くは解体工事を待つ状態で、多くの建物で、アスベストを含有している可能性のある吹付け耐火被覆が放置されている状況、スレート板が使用されている倉庫等が津波で損傷をうけたままの状況がみられました。確認された吹付け耐火被覆は14か所で、そのうちの1か所はクロシドライトおよびアモサイトの吹付けが露出しており、周囲へ脱落した吹付け材が落ちていました(写真3-1〜3-3)。この場所はアスベスト曝露の危険性が高いと考えられるため、この周囲で重点的にアスベスト気中濃度測定を実施しました。それ以外の吹付け耐火被覆は全て吹付けロックウールと思われ、アスベスト含有の有無は分析しなければわかりません。2011年の調査の結果から、被災地では吹付けロックウールにアスベストが含有している可能性は低いことが分かっています。これらに石綿の含有が確認された場合は石綿障害予防規則により厳重な飛散防止対策を採って除去工事を行わなければなりません。吹付け耐火被覆は通常は露出していないことが多いため、今回の調査のように建物の外から見ただけでは分からない場合も多くあると考えられ、実際の吹付け耐火被覆の数はもっと多いと考えられます。
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 アスベストを含有している可能性の高いスレート板は140か所で発見され、非常に数が多いことがわかりました。水産加工などの工場や倉庫が多く、津波によって1階部分などの建物の下部が損傷を受けているものがほとんどでした。これらは損傷部分に新しいスレート板がすでに施工される形で改修されているものも多く観られ、除去されたスレート板が集積され、また散乱している光景も多く観られました。具体的な状況としては、①スレート板が使用されている建物は魚町などの港湾地域に多く、中央などの市の中心部には少ないことが分かりました。②主に修復不能の多くのスレート材を使用した建物が既に撤去されており、どれ程の建物がどのように解体されたのかは不明であり、これらによるリスクは不明です。③調査時に改修工事が行われていた建物が多数確認されました。これらの工事の多くは鉄骨の骨組みを生かし、津波で破壊された下部のアスベストを含有するスレートを除去して、アスベストを含有していない新しいスレート材を施工しているものでした。スレート板の除去時には骨組みを保護するために、破砕せずに除去されていました。これらは分別されてコンテナ袋に入れられており、石巻市の1次仮置き場へ搬送されています。2カ所で波板スレート改修作業に従事していた労働者に話を聞くことができました。いずれも分別はしているものの、アスベスト含有ということは知らず、アスベスト関連作業に対応する呼吸用保護も使用していませんでした。また、破砕しないように除去されたスレート板を袋に入れるために破砕している様子も確認されています。破砕せずに取り外した板を破砕して袋詰めすることは、不必要に粉じんを発生させる要因であり、改善の余地があると思われます。④未だ津波に破壊されたアスベスト含有材を使用した建物は多く残されており、多くの労働者が従事しながら解体作業が長期間継続することが予想されます。
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 今回の調査では建物を外部から観察しただけです。また吹付け耐火被覆と波板スレートなどアスベスト含有の確認できた成形板のみを対象としました。これ以外にも非常に多くの種類のアスベスト含有建材がこれまでに製造されており、これらは内装材にも多く使用されています。調査を実施した私たちの実感としては、ほとんど全ての建物にアスベスト含有が疑われる建材が使用されているのが、被災地だけでなく日本全体の状況です。アスベスト含有建材は常に身の回りにあり、リスクは常に存在するという認識に立ち、リスクを評価することが対策への第一歩と考えます。また作業方法、搬送方法の改善が飛散防止に寄与することは明らかであり、事業者と作業者への教育が重要と考えられます。
 石巻市雲雀野のがれき仮置き場を視察しましたが、そこではアスベスト含有建材をフレコンバックに入れて分別して回収しており、すでに3,000袋が回収されています。また津波で発生した大量の分別されていない混廃の中にもアスベスト含有建材があるとの前提で湿潤化を行っています。一方で一部にスレート板が石膏ボードと混ざっており、またスレート材をフレコンバックに入れて回収しているために、破砕せざるをえない状況も確認されました。
 マッピングの結果はGoogle Map上に示し、下記にて閲覧可能です。
http://maps.google.com/maps/ms?ie=UTF&msa=0&msid=204020307291805390627.0004b4b91768007df3924

4-2.環境空気中の石綿濃度測定結果
 マッピングの結果を元にアスベスト飛散の危険性の高いと思われる場所34か所で気中石綿濃度測定を実施しました。測定結果を表1に示します。気中石綿濃度はほとんどの場所で低濃度でしたが、吹付けクロシドライトおよび吹付けアモサイトのある場所の近くの測定点ではわずかですが、濃度の上昇が観られ、最大2.3f/Lのアスベスト濃度が確認されました。鉄骨2階建て建物の鉄骨部分にアモサイトおよびクロシドライトの吹付けがあり、両側の壁が損傷しており、風が吹き抜ける状態となっており、周囲にも吹付け材の断片が落ちている状況でした。その周辺の地図上に測定点と測定値を図3に示します。吹付けアスベストの周囲では、ごくわずかですが、他の場所と比較して濃度の上昇がみられました。露出した吹付け材などの飛散しやすいものの周囲ではアスベスト飛散の可能性があります。今回の調査では、アスベストを含有しているスレート板を破砕している可能性のある現場では濃度の上昇は観られませんでした。
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4-3.リスク評価
 今回の調査では、建材調査の過程でリスクの高い可能性のある場所が判明し、その場所で気中濃度測定を行うことで、他よりも濃度の高い場所が特定されました。明らかにリスクの上昇が観られたのは、露出した吹付けアスベストがあり、その周囲に吹付けアスベストの断片が散乱している場所でした。その気中濃度は最高2.3f/lでした。この濃度からリスクを推定することができます。日本産業衛生学会の許容濃度委員会によるリスク評価値を表2に示します。クロシドライトやアモサイトを含むアスベスト曝露の場合、1f/mlつまり1,000f/Lの石綿に1時間曝露した場合の発がんリスクを100万人あたり0.28人としています。これから今回の測定値2.3f/L(0.0023f/ml)に1時間曝露したときの発がんリスクは0.000644人(0.28人×0.0023f/ml)となります。仮にこの濃度に1か月間継続して曝露した場合には、0.000644人×24時間×31日=百万人あたり0.48人となります。これは直ちに対策を講じなければならない程の高濃度ではありませんが、吹付け材の露出している場所では若干の気中アスベスト濃度の上昇が起こり得ることを示しています。この建物は3月中に「レベル1」の対策工事として除去が完了する予定ですから、工事が適切に行われることによってリスクはなくなります。
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スレート材は非常に数多く確認されましたが、これらによって気中アスベスト濃度が上昇していることは確認されませんでした。しかし、スレート材であっても破砕によってアスベストが飛散することは、これまでの研究によって確認されていますし、2011年の被災地での調査でもスレート板を直接取り扱う作業の直近では濃度の上昇が確認されています。今回の調査ではスレート板を除去する作業の直近での測定は実施できませんでした。不用意に飛散させてしまう状況がある場合は対策が必要です。

4-4.リスクコミュニケーション
 リスクコミュニケーションについては、例えば住民と行政、業者が同じ場所で協議するなどの体系的なものには至りませんでしたが、調査結果を住民、行政などに報告し、情報と意見の交換をする中で、具体的な対策へ向かう事例が見られました。いくつかの特徴的な事例を以下に示します。
①露出し、周囲に散乱した吹付けアスベストのある現場について
 行政機関に1/24報告したところ、場所については既に把握されていましたが、吹付けアスベストが散乱している状態については把握しておらず、石巻保健所は報告後その日のうちに現場を確認し、散乱したアスベストを回収しました。1/23濃度の上昇が観られましたが、その後(2/28)濃度は上昇していません。
②行政機関との対話から
 石巻市災害廃棄物対策課、石巻労働基準監督署、宮城労働局の担当者との情報交換と話し合いの中で、石綿作業従事者の特別教育および石綿作業主任者技能講習の法定の労働者教育が十分に提供されない可能性があることが分かり、東京労働安全衛生センターが協力する方向で検討が始められました。
③調査結果の報告会から
 2012年3月20日「アスベストから石巻を守ろう!アスベスト問題を考える市民の集いin石巻」が開催され、今回の一連の調査と活動の報告会行いました。案内チラシをP.20に示します。参加者は60名で、石巻市在住、在勤の参加者は20名、仙台市は21名、東松島市と名取市からは1名、それ以外は14名、不明が3名でした。質疑と意見交換では、がれきの仮置き場周辺での不安の意見が示され、矢内勝先生(石巻赤十字病院呼吸器内科部長)からも対応を望む意見が示されました。アンケートは25名が提出し、回収率は42%でした。アンケートの結果を表4に示します。アスベストの危険性を理解することができ、全体的に良い評価を受けたと思われます。感想は13名の参加者が記入し、「今後も継続してほしい」、「もっと知りたい」、「具体的な対策を知りたい」などの要望が寄せられました。
④パンフレット、ポスターの作成
 調査で得られた情報などをもとに、アスベストの危険性を分かりやすく解説したパンフレットとポスターを作成し、3月20日の報告会などで配布しました。これらの効果は今後確認する必要があります。
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5.提言
5-1.リスクを知るために
 調査の結果から、被災地のアスベストリスクの特徴が分かってきました。飛散性の高いアスベスト含有建材は数が少ないものの、発がんリスクの高い角閃石アスベストの吹付けが発見されており、気中濃度測定結果から、リスクの上昇が確認されました。危険性の高い吹付けアスベストは1か所のみ確認されましたが、この他にも露出しない状態で残されている可能性があり、解体・改修される建物は全て事前の調査が必要です。吹付けロックウールと思われる耐火被覆材は13か所で確認されましたが、これらは分析を経なければアスベスト含有の有無は分かりません。アスベスト含有が確認された場合、これらは管理と除去時の対策が必要です。アスベストを含有する吹付け材、耐火被覆板、保温材、断熱材のレベル1および2にあたる建材は調査により発見に努め、その場所を確認し、掲示等により表示し、立ち入り禁止、応急処置などの措置を講じる必要があります。またアスベストとアスベスト含有建材について基本的な知識が普及していない状況が、作業者との話や3月20日の報告会でのアンケートからうががわれました。基本的な知識を普及させることも重要な課題と思われます。
【具体的な提案】
①アスベストの危険性、アスベスト含有建材の特徴、曝露防止対策などの基本的な知識を普及するためにパンフレットとポスターを活用します。
②吹付け材など飛散性の高いアスベスト含有建材について情報を提供・集約し、その表示を行います。
③アスベスト含有が不明の吹付け材は、早急に分析により含有の有無を確認します。
④アスベストを含有する吹付け材が外部へ露出している場合は、アスベスト粉じんが発生している危険があるため、応急処置としてビニールシートなどで囲います。
⑤スレート材などの成形板にもアスベスト含有の可能性があること、破砕等によって飛散すること、など適確な情報を広めます。

5-2.リスクコミュニケーションをすすめるために
 災害復興の過程では平時とは異なるリスクが生じる可能性があります。リスク管理を災害復興の一部分として位置づけ、リスク低減のために、的確な情報を伝え共有することと、意見交換の場を設けるリスクコミュニケーションを進めます。住民、ボランティア、行政、業者、NGOなどが関わることができる広いリスクコミュニケーションの場をつくります。
【具体的な提案】
①行政は災害復興の一部分としてリスク管理を位置付けます。
②地域、ボランティア団体、学校などで、例えば防じんマスクの使い方講習などとあわせてリスク教育とリスク低減のための協議をおこなう企画を開催します。

5-3.工事とがれき仮置き場でのリスク低減のために
 アスベスト含有吹付け材などについては、除去する際には専門の除去業者により適切な対策のもとで工事を行う必要がありますが、環境省などの調査により、被災地でのアスベスト除去工事における外部への漏洩事故が報告されており、除去工事が適切に行われているかどうか点検する必要があります。
 スレート材などの成形板はアスベストの飛散するリスクは小さいものの、大量に残されています。多くの解体現場で十分な対策を採ることなく除去、破砕されており、改善が必要です。
【具体的な提案】
①各行政機関は、吹付け材など飛散性の高いアスベスト含有建材除去作業への監視監督を強化し、同時に技術的な支援を行います。
②発注者である行政機関は、全ての建物にアスベスト含有建材が使用されている可能性がある認識に立ち、関係法令遵守と飛散防止対策を業者選定の条件とします。
③がれき仮置き場の管理者としての行政機関は、アスベスト含有建材の分別回収と管理を強化します。
④行政機関が石綿特別教育、石綿作業主任者技能講習を提供します。
⑤スレート板など成形板は、除去する際に湿潤化すること、破砕せずに除去・回収することを周知徹底し、そのための技術的な支援を行います。
⑥古いスレート板は再利用しないこと、特に電動工具を使用して加工しないことを周知徹底します。
⑦改修によってアスベスト含有スレート板と新しいアスベストを含有しないスレート板が混在してしまう場合は、新旧の区別を記録し、保存します。
⑧住宅地域や学校などに近いがれきの仮置き場は移動させます。

5-3.今後の地震・対策のために
 日本では周期的に地震・津波が発生し、建物が被害を受ける歴史を繰り返してきました。アスベストの大量使用が始まる1960年代以降巨大地震は数回発生しているものの、今回の津波被害のように広範囲で甚大な被害が発生することは予想されていませんでした。アスベストの建材への使用が2000年代まで続いたことを考慮すると、2050年まではアスベスト含有建材への対応が必要となります。今回の調査のマッピングはリスクを把握するための有効な手段と思われますが、地震発生後の段階では、十分な調査を行うことは限界があり、調査対象にできたのは限られた建材のみです。従って、地震・津波により、また解体の際にもリスク要因となりえるアスベスト含有建材の使用されている場所を平常時に確認し、記録を残し、あるいは登録しておくことが重要と思われます。現在日本では石綿障害予防規則第3条により、解体前のアスベスト含有建材の事前調査が義務づけられています。解体時に調査が必要なのであれば、先取り的に平常時に計画的に調査を行い災害に備えることは可能であると思われます。

6.結び
 今回の石巻での調査・活動では、多くの人の参加によりリスクの特徴をつかむことが可能であることが確認され、それにより対策を一歩前へ進めるための具体的な提案を見いだすことができました。大震災被災地のアスベスト含有建材を含む建物とがれきの処理は今後数年間続くことが予想されています。私たちは被災地の復興を何よりも望みます。そして復興は人々のいのちと健康を守ることが第一の条件であることを信じます。今後も調査を継続し報告と提言を続けていきます。
 厳寒の中で調査に参加された皆さん、作業中に手を止めて話を聞かせてくれた皆さん、石巻市、石巻保健所、石巻労働基準監督署の関係者の皆さんに謝意と敬意を表します。
 この調査・活動は独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施されました。