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2011 東日本大震災被災地における石綿の状況(第1報)

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2011年7月1日


NPO 法人東京労働安全衛生センター
中皮腫・じん肺・アスベストセンター
立命館アスベスト研究プロジェクト
財団法人労働科学研究所
地震・石綿・マスク支援プロジェクト
【協力】  フィットテスト研究会

1.調査の目的
 日本ではこれまでに約1,000万トンのアスベストが輸入されその8割以上が建材に使用されました。2008年にアスベストの使用は基本的に禁止されましたが、現在も大量のアスベスト含有建材が建物に残されており、解体除去時にそれらからのアスベスト粉じんに曝露することによりじん肺、肺がん、中皮腫などの健康影響が発生すると考えられています。1995年の阪神淡路大震災後の解体工事に従事した作業者がアスベスト曝露により中皮腫を発症し、震災から13年後の2008年に労働災害を適用されていることからも震災後の作業者と住民、ボランティアの皆さんのアスベスト曝露が懸念されています。平常時であれば建築基準法、建設リサイクル法、石綿障害予防規則、廃棄物処理法、大気汚染防止法などの関連法規を遵守することにより作業者、建物利用者と周辺住民のアスベスト曝露を予防することができます。しかし震災と津波により損傷を受けた建物が大量に残され、そのがれきの処理に数年という時間を要すると言われています。今後これら建材の撤去と廃棄が行われる中でどのようにアスベストが飛散し、どのようにアスベスト曝露の可能性が生じるのかということは、これまでに経験したことがなく、そのような未知の領域のなかで人々のアスベスト曝露を予防する適切な対策を行う必要が生じています。
 今回の調査は、被災地でのアスベスト含有建材の状況を把握し、気中のアスベスト繊維濃度を測定し、またこれらを評価することにより、今後の適切かつ合理的なアスベスト対策を検討し提言することを目的としています。

2.調査の概要
 これまでの調査および活動の概要は以下のとおりです。
 ①4/10 宮城県南三陸町で調査
 ②4/23-25 宮城県仙台市、塩釜市、石巻市、気仙沼市などで調査
 ③4/29-30 岩手県山田町、一関市、宮城県気仙沼市などで調査
④5/3-4 岩手県大船渡市、釜石市、大槌町などで調査
 ⑤5/8-9 岩手県大船渡市、陸前高田市、宮城県気仙沼市などで調査
 ⑥5/14 石巻赤十字病院にてマスクフィットテスト研修会(第1回)開催
 ⑦6/13-17 仙台市、名取市、女川市、石巻市などで調査
 ⑧6/18 石巻赤十字病院にてマスクフィットテスト研修会(第2回)開催

3.調査方法
 ①建材の石綿含有分析は、津波被災により損傷を受けた建物の露出し不特定多数の人が接触される状態で放置されている吹付け材、断熱材、耐火被覆板などの石綿障害予防規則上のレベル1および2にあたる材料、およびがれき仮置き場で観られたアスベスト含有と思われる建材を中心に採取し、ISO/DIS22262-1の方法により実体顕微鏡と偏光顕微鏡を使用してアスベスト含有の有無と含有するアスベストの種類を定性分析しました。
 ②気中石綿濃度測定は、津波被災により損傷を受けた建物で吹付け材などが露出しているなどのアスベストが飛散する可能性がある場所において環境空気中の粉じんを採取し、位相差・偏光顕微鏡にて総繊維数濃度とアスベスト繊維濃度を定量しました。
 ③上記の調査時の周辺の建物の状況調査と周囲にいた作業者、住民との話、またマスクフィット研修会参加者との意見交換など、建物の状況と人々の防じん対策の状況から対策を検討しました。

4.調査結果
4-1.被災地のアスベスト含有建材の状況
 津波被災地では震災から3ヶ月以上を経てがれきの撤去が進められていますが、多くの場所で依然として、アスベストを含有している可能性のある吹付け耐火被覆が放置されており、応急処置により飛散防止がなされているものは観られませんでした。津波被災地には漁港が多く、海産物の倉庫や作業場が点在しており、そのような施設にはスレート材を屋根と外壁に使用しているものが多く、大量のスレート材が残されています。また一部の倉庫の折板屋根にはフェルト状の断熱材が使用されており、これらもアスベスト含有の可能性があり、注意が必要と思われます。
 すでに多くのがれきが仮置き場へ移動されていますが、がれき仮置き場のアスベスト含有建材の状況は場所により異なり、アスベスト含有建材を分別して受け入れている場所、分別はしておらず他のボード類と混ぜて受け入れている場所、受け入れていないが実際には混ざっている場所が、観られました。

4-2.石綿含有分析結果
 最も飛散性の高い吹付け材からはアスベスト含有率の高い吹付けアモサイト、吹付けクロシドライトが発見され、それぞれ各自治体へ報告しました。その他にクリソタイル含有吹付けロックウール、耐火被覆板(がれき仮置き場)も観られました。アスベスト含有スレート板などの成形板は分析するまでもなく石綿含有と判明するものが多く、津波被災地の海産物の倉庫や工場などだけでなく、がれき仮置き場でも大量に観られました。全体的に観て、リスクの大きい吹付け材などは限られおり、リスクが小さいスレートなどの成形板が多く存在している状況が確認され、それぞれについて対策が必要と思われます。

4-3.環境空気中の石綿濃度測定結果(表1)
 気中石綿濃度はほとんどの場所で低濃度でした。がれきの除去に伴うアスベスト含有建材の除去作業は4点測定を実施しました。そのうちNo.21についてはわずかに環境空気中の繊維濃度の上昇が観られました。No.38、46および47については後述します。
 がれきの仮置き場においてクリソタイル含有の成形板をトラックから降ろす作業の直近では総繊維濃度53.3f/L、石綿繊維濃度33.9f/Lの濃度を示しました(がれき作業場での短時間の測定のため他のデータとの比較が不適切と考え、表1からは除く)。作業者はこれら建材がアスベストを含有していることを知らず、他のがれきと同様に取り扱っており、適切な呼吸用保護具を使用していませんでした。またこの作業の近くでの測定では総繊維濃度1.47f/L、石綿繊維濃度0.59f/Lを示しました(No.39)。がれき除去に携わる作業者はアスベスト粉じんに曝露する可能性があると思われます。またこの仮置き場の近くには避難所はありませんが、他の地域には避難所や居住地、学校などの近くの仮置き場もあり、そのような場所で同様の作業が行われる場合には周辺へのアスベスト粉じんの飛散する可能性が否定できません。

4-4.聞き取りや意見交換などから
①6/14仙台市調査中に会った作業者2名の話
 アスベスト含有建材については事業者から注意を受けておらず、スレート板に石綿含有があることを知らなかった。呼吸用保護具は1名はRS2取替式防じんマスクを持っていたが、アスベスト作業では使用してはならないメリヤスカバーをつけていた。
②6/15女川町でのスレート除去工事
 屋根と外壁に石綿含有スレート板を使用した冷蔵倉庫の解体工事が湿潤化なし、保護具着用なしで行われていたため、現場監督に事情を聞いたところ、その現場監督は5/14石巻赤十字病院で開催されたマスクフィット研究会の参加者であった。現状が石綿障害予防規則違反にあたることを説明し、最低限の対策として散水による湿潤化と呼吸用保護具の着用を求めた。いったん工事を止めて対策をとることが確認されました。約1時間後、現場監督から連絡があり、町から散水車を借り、保護具を支給して工事を再開したと電話連絡がありました。6/17に事前に通告なしに再度現場を訪ねたところ散水と保護具着用にて作業が行われていました。この現場では気中石綿濃度測定も実施しましたが、気中石綿濃度の上昇は観られませんでした(No.38、46および47)。
③マスクフィット研修会では、被災地の住民とボランティアに対して呼吸用保護具の選び方と使い方をトレーニングによって短時間で学び、参加者からは「マスクの選び方と使い方の重要性が理解できた」「マスクの使い方は習わなければわからないことが理解できた」などの意見が寄せられました。また石巻市内の粉じん濃度が高いと思われる場所について情報が寄せられ、石巻商業高校では敷地の北側と西側を学校敷地よりも広い面積のがれき仮置き場に囲まれており、粉じんや悪臭により授業が妨げられている状況にあることが報告されました。石巻商業高校において6/17気中石綿濃度測定を実施しました。測定結果はアスベスト濃度の上昇は確認されませんでしたが、風向と作業の内容によってはアスベスト粉じんが発生し生徒、教職員が曝露する可能性も考えられることから湿潤化などの対策と継続的なモニタリングの必要があると思われます。
④地元アスベスト除去業者との面談
 環境省の2011年3月19日付事務連絡「廃石綿やPCB廃棄物が混入した災害廃棄物について」の(参考)1.が拡大解釈され、被災地の全ての建物の石綿含有吹付け材が廃石綿ではない扱いを受けるとして、負圧養生などの対策が可能であるにも関わらずそれを省いて除去することを求められることがあるとのことでした。

5.提言
5-1.飛散性の高いアスベスト含有建材の発見と表示、対策
 飛散性の高いアスベスト含有建材は数が少ないものの、発がんリスクの高い角閃石アスベストの吹付けが発見されており、これらは管理と除去時の対策が必要です。アスベストを含有する吹付け材、耐火被覆板、保温材、断熱材のレベル1および2にあたる建材は調査により発見に努め、その場所を確認し、掲示等により表示し、立ち入り禁止、応急処置などの措置を講じる必要があります。除去する際には専門の除去業者により適切な対策のもとで工事を行う必要があります。
【具体的な提案】
①吹付け材など飛散性の高いアスベスト含有建材について住民、ボランティアと解体業者から情報収集し、その表示を行います。
②吹付け材など飛散性の高いアスベスト含有建材除去作業への監視監督を強化します。

5-2.スレート材など石綿含有建材への注意喚起と対策
 スレート材などのアスベスト含有成形板はアスベストの飛散するリスクは小さいものの、大量に残されています。解体現場で対策を採ることなく除去されており、がれき仮置き場では程度の差があるものの混合している現状、またがれき仮置き場でのアスベスト濃度の上昇が観られたことからも解体、運搬、処理の各段階での今後の改善が是非とも必要です。
【具体的な提案】
①スレートなどアスベスト含有成形板について住民、ボランティアと解体業者の注意を喚起します。
②スレートなどアスベスト含有成形板の除去解体時の対策を徹底します。
 ・散水による飛散防止
 ・分別解体と分別処理
 ・石綿作業主任者の選任
 ・適切な呼吸用保護具(国家検定合格品)の使用 などの関連法令を遵守すること。
③スレートなどアスベスト含有成形板の搬送時、がれき置き場での処理を改善します。
 ・搬送時にはトラックに幌をかけます。
 ・がれき置き場ではアスベスト含有建材を分別して回収します。
 ・被災者の雇用にも考慮し、がれき置き場にアスベスト含有建材を分別できる人員を養成し配置します。
 ・これまでに受け入れたがれきについても可能な限り分別します。
 ・がれき置き場のアスベスト含有建材は散水などにより飛散防止を行います。
 ・再生、再利用される材料へのアスベスト含有建材の混入を防ぎます。

5-3.住民とボランティアへの粉じん対策
 被災地ではがれきの除去作業が長期的に行われることが予想されるため、アスベストに限らず有害物質が飛散し呼吸器系疾患を引き起こす可能性があります。これまで2回実施されたマスクのフィットテスト研修会では防じんマスクの選び方と使い方を効果的に研修することができました。マスクの使い方は習わなければ理解されない、との認識に立ち同様の研修会を自治体が実施することを提案します。

6.アスベストのリスクの特徴とその対策
 アスベストはその微細な粉じんを吸入すること(曝露)により、長い潜伏期間の後にじん肺、肺がん、中皮腫などの悪性腫瘍を発生させるリスクを生じます。アスベストがガンを発生させるリスク(危険の大きさ)は曝露した量によって変わり、曝露が大きい程リスクが大きくなります。もう一つの重要な特徴は曝露がこれ以下ならば誰にもリスクを生じさせない量(閾値)が確認されていない点です。つまりアスベストはわずかであっても曝露により発がんリスクを生じさせることになり、曝露量は少ない程リスクは小さくなり、従って曝露量を最小にすることが最善といえます。
 またアスベストの気中濃度測定は環境省、厚生労働省などが定めていますが、環境省の「アスベストモニタリングマニュアル第4版」にみられるように複数の異なる方法が併記されており、いわば「決定版」といえる測定方法は存在しません。つまりアスベストは気中濃度を測定すること自体がたいへん難しい物質なのです。
 アスベストリスクの特徴は、①広く使用されどこにでもあり、誰もがいつでも曝露する可能性があり、また②閾値のない発がん物質であり、かつ③適切に濃度を測定することが難しい、点にあると考えられます。従って私たちは、「測定して基準値を超えていないから対策は不要」と考えるべきではなく、全ての人の曝露を最小限にするために採りうる実行可能で合理的な曝露低減策は全て採るべきであると考えます。
 大震災被災地のアスベスト含有建材を含むがれきの処理は今後数年間続くことが予想されています。私たちは被災地の復興を何よりも望みます。そして復興は人々のいのちと健康を守ることが第一の条件であることを信じます。この調査報告は第1報であり、今後も調査を継続し報告と提言を続けていきます。
表1(PDF)



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