作業環境測定機関 労働安全衛生コンサルタント事務所 専門家による石綿分析

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吹付けロックウール トレモライト含有 
施工年 不明
施工場所 不明

 トレモライトは産業用に使用されていないとされてきたが、2008年以降様々な場所で見つかり問題となっている。日本石綿協会の機関誌「せきめん」1981年No.420にはトレモライト輸入の広告が掲載されている。この広告の韓国産トレモライトは日本が戦時中開発した鉱山のものと思われ、Asbestiformが多く、発がん性が高いとの指摘がある。韓国ではソウルの地下鉄のホーム天井に吹付けられており問題になっている。


実体顕微鏡写真30倍

 
ロックウールの単繊維に混じって石綿のように見える繊維束が観られる。
 
位相差顕微鏡と偏光顕微鏡の比較

左:位相差顕微鏡 右:偏光顕微鏡(直交ニコル+鋭敏板) ともに100倍 中央⇒にトレモライト繊維がある。偏光顕微鏡は容易に識別できるが、位相差顕微鏡ではロックウールとの見分けが難しい。 
 
偏光顕微鏡(クロスニコル+鋭敏色板、100倍)

 
直交ニコル+鋭敏色板 400倍 写真右のように繊維方向が右上-左下のとき青系、逆のとき赤系の発色は伸長の正負が正でトレモライトなどの特徴。
 
偏光顕微鏡(クロスニコル、100倍)


直交ニコル 400倍 上と同じ繊維。消光角は斜消光であることがわかる。


偏光顕微鏡(分散染色法) 


 偏光顕微鏡と同じ繊維を観る。浸液の屈折率1.640 400倍にすると分散色が確認できるが、周囲の粒子の光で見つけにくい。
 
偏光顕微鏡(クロスニコル、400倍)

偏光顕微鏡400倍の観察 左がへき開、右が石綿様繊維と思われる。へき開とは塊状の鉱物が特定の方向に割れやすい面を持つこと。角閃石は柱状結晶を成形しへき開があるので長い粒子を成形しやすいが、これは石綿様繊維ではなく、角閃石の粒子である。日本のJISではアスペクト比(縦横比)1:3以上の繊維を全て計数するが、世界的には区別する方向になっている。これはエックス線回折では区別できない。形態観察が重要である。 

偏光顕微鏡(分散染色法)

上の写真と同じ繊維を位相差分散顕微鏡で観る。
 
 2008年1月、トレモライトなど「新3種」と呼ばれるクリソタイル、クロシドライト、アモサイト以外の種類の石綿が見つかり問題となった。輸入量などの詳細はまだ不明だが、輸入され使用されたことは間違いない。これは吹付けロックウールにトレモライトが使用されたもの。数%台の含有率と思われ、意図的に含有させていると思われる。写真のようにトレモライトの識別は位相差分散顕微鏡のみでは難しい。ロックウールの分散色とトレモライトのそれがよく似ているためである。回転偏光板をいれれば色が変化するので多少助けにはなるが、ずっと回し続けなければならない。トレモライトの分析には偏光顕微鏡が圧倒的に有利である。
 へき開と石綿様繊維を区別することについては、過小評価になる可能性もあり慎重に考える必要があるとの意見があるが、実際には形態観察を重視することとなり、ISOの定義では細繊維、アスペクト比3:1未満の石綿の束、塊などを的確に見つけ出すことから、必ずしも過小評価にはならない。 
 
 この試料は石綿含有率1%以下と思われる。位相差分散顕微鏡のみの観察ではクリソタイル繊維を見つけることは難しく、エックス線回折分析法のチャートも未処理の粉末試料では石綿の可能性のあるピークの確認は難しい。偏光顕微鏡ならば容易にクリソタイル繊維を確認できる。エックス線回折分析法と位相差分散顕微鏡を使用するJIS法でも、ギ酸処理した試料を使えばクリソタイルを定性できると思われる。