作業環境測定機関 労働安全衛生コンサルタント事務所 専門家による石綿分析

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石綿対策の課題   調査、分析、管理、除去、廃棄の各段階の課題

1.はじめに
 現在、建材などとして大量に残されている発がん物質としての石綿に対しては、複数の省庁によるいくつかの法律により規制が設けられています。既存石綿含有製品の対策では、①調査(どこにあるのか把握すること)、②分析(石綿含有の有無の確認)、③管理(除去されるまで飛散しないように管理すること)、④除去(飛散させずに除去すること)、⑤廃棄(収集運搬、最終処分場での飛散防止)の5つの段階での管理が求められます。
 法規制は複数の省庁が管轄することになり、表に示すように、建物管理、労働者保護、大気環境規制の観点からそれぞれの法律が規制しています。そのため石綿含有建材のある建物の解体工事では複数の届出を行わなければならず、また地方自治体の条例もあり、繁雑な手続きが必要となります。表3に石綿含有建材の分類を示す。これらの建材は飛散性が高いもの(国際的にはFriable:易損、日本では「飛散性」)、飛散性の低いもの(国際的にはNon-Friable:非易損、日本では「非飛散性」)に分類されているが、これも省庁によって分類と名称が異なります。




①  調査
 増改築を繰り返す建物の石綿調査は難しいとされていますが、2005年施行された石綿障害予防規則では、建物の解体工事の前に石綿含有建材の有無を確認するために「事前調査」を義務付けているものの、その調査方法、記録様式、資格については規定がなかった。厚生労働省は2012年5月「建築物等の解体等の作業での労働者の石綿ばく露防止に関する技術上の指針」を公示として発し、その解説を公開しました。その中で事前調査ができる者として「日本石綿調査診断協会に登録されたアスベスト診断士」を挙げました。しかし、この通達に対して石綿の被災者団体などは、過去に石綿を普及させてきた旧日本石綿協会(現JATI協会)が運営している資格制度であり、公正さに欠け、社会的なモラルに反すると抗議し、撤回を求めています(毎日新聞 2012.7.18)。
 一方、国土交通省では2007年の総務省による民間建築物の石綿含有建材の調査の促進のための調査方法の検討指示を受けて、社会資本整備審議会アスベスト対策部会同ワーキング・グループ(以下WG)において2008年から総合建設業、一級建築士、自治体、建材分析、石綿除去業等の委員による多様な検討が行われ、2013年「石綿含有建材調査者」の養成を開始しました。 

②分析
 日本では、2006年制定され2008年改訂されたJIS A 1481「建材製品中の石綿含有率測定方法」が石綿障害予防規則に定められた分析方法ですが、国際的に通用している方法と異なる方法であり、石綿の定義も国際的合意と異なり、また精度の面でも問題点が指摘されていました。ISO(国際標準化機構)でも2012年、製品中の石綿の定性分析方法が制定され、ISOのワーキング・グループには日本からも代表が参加し、日本独自のX線回折法をISO法に取り入れさせるべく奮闘したが採用されませんでした(毎日新聞 2012.6.24)。ISO法の発効によりJIS法を改定する必要が生じ、経済産業省と日本工業標準調査会では国際基準の方法を採用する改定の準備を開始し、2014年3月ISO法を取り入れた改定JIS法が発効しました。
 石綿の分析は、対策の入口であり、「含有あり」を「なし」としてしまうと、即ばく露事故につながり、「含有なし」を「あり」とすると、不要かつ高額の除去費用がかかることになります。米国の石綿分析での技術認定プログラムでは年4回の試験試料分析以外に日常的に精度管理が行われており、ミスが1%を超えると資格を失うという厳しいものです。海外では発がん物質である石綿分析のためにそれほど厳しい管理が求められますが、日本では国際標準と異なる分析方法が通用してしまい、精度管理も確立していない状況にあります。

③管理
 石綿含有建材は身の回りにあふれており、全てをすぐに除去することは不可能です。今後数十年にわたって飛散と曝露を防ぐ管理が必要となりますが、様々な建材について管理する方法、いつどのような状態になったときに除去が必要となるのかは、ほとんど検討されていません。これに関連する法律は石綿障害予防規則の第10条の事業者の労働者の石綿粉じん曝露防止義務についての規定ですが、飛散のおそれのある建材の状況や濃度測定によるリスク評価方法などの規定は定められていません。
 2012年9月にボイラー設備などを有する建物に付随する煙突の内部に施工されている石綿断熱材からボイラーの通常使用時に煙突から石綿が飛散し、またボイラー室内も石綿に汚染される可能性があるという報告が相次いで発表されました。煙突以外にも例えば石綿含有吹付け材が空調の経路にある建物は常時風が当たることにより石綿が飛散している可能性があります。またエレベーターシャフト内の吹付け材も風や振動を受けて飛散する可能性がありますが、充分調査されておらず、管理の分野でも対策はこれからです。

④除去
 石綿含有建材の中でも飛散性の高い吹付け材等の除去については、石綿障害予防規則と大気汚染防止法に規定されていますが、不適切な工事、漏洩事故、無届け工事などの問題事例がたびたび報道されています。現行法では技能と熟練を要する吹付け石綿除去業に資格免許制度がなく、誰でも行い得るために技術を保証するものが何もなく、石綿が完全に除去されたことの作業後の完成検査も行われていません。吹付け材と比較して飛散性が低い成形板等については石綿障害予防規則で除去時に湿潤化などの対策が義務付けられていますが、一部の自治体を除いて届出や定常的な監視がなく正確な実態さえ把握されていないのが現状です。2013年に環境省は大気汚染防止法を改正し、建物所有者の責任を強化し、自治体の立ち入り権限を拡大するなどの規制強化策をとりました。厚生労働省も2014年に石綿障害予防規則(石綿則)を改正し、除去時の飛散防止対策の徹底、煙突などレベル2建材によるばく露防止を追加しており、規制強化の方向を打ち出していますが、まだ不十分です。

⑤廃棄
 環境省が所管する廃棄物処理法では、吹付け石綿などの廃棄物を「廃石綿等」の特別管理産業廃棄物として管理型または遮蔽型最終処分場で処分すること、それ以外の成形板等は産業廃棄物として処理することが規定されています。廃棄物処理法は「廃石綿等」の不法投棄などの悪質な違反事業者には最高3億円の直接の罰金を課すなどの厳しい法律だが、解体現場や中間処分場で石綿含有建材が他のものと混ざってしまうこと、特に意図的ではない場合の監視は弱いのが実情です。石綿含有建材の廃棄については環境省国交省の所管する建設リサイクル法は、建材のリサイクルを進めるための法律ですが、石綿は逆にリサイクルしてはならない建材です。リサイクル対象とそれをしてはならない建材が建物には複雑に混在していますが、建設リサイクル法では、吹付け石綿などの「付着物」としての石綿の除去を確実にすることのみをうたっており、成形板等の確実な分別と混入防止についての規定はありません。2009年埼玉県さいたま市の市民グループの調査によって明らかになった再生砕石中の石綿含有建材の問題は成形板等が解体現場などの「上流」で分別されないためにコンクリートガラのリサイクル商品である再生砕石に広範に混入していることを示しました。今後は再生砕石による土壌汚染が問題となり、石綿のライフサイクルを終わらせることができない状況になる可能性があります。
 


 関係論文 日本における石綿の定義と建材等製品中の石綿含有分析の課題


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